NHK『ひとモノガタリ』1
2018年9月24日に放送されたドキュメンタリー番組、NHK「ひとモノガタリ」で、スマホ修理王が取り上げられました。

内容は、「長らく使えていなかったガラケーの中に眠るデータを復活させる」というもの。
私たちスマホ修理王は、ガラケーの修理も行っています。

今回は、同番組の裏側をご紹介したいと思います。

番組の概要

ひとモノガタリ「ガラケー、よみがえらせてみたら…」
笑いと涙に包まれる、不思議なイベントがある。携帯電話「ガラケー」の復活イベント。実はガラケー、充電しないと起動すらしなくなるのだ。ガラケーに眠る、感動物語に密着
(中略)
・・・またある人は、ガラケーに残されていた「震災の記憶」を取り戻すため奮闘する。誰もが持っていた、ガラケーに眠る感動物語に密着。語り、早見沙織
https://www4.nhk.or.jp/P5035/x/2018-10-14/21/9716/2110232/

この日の内容は、上記の通り。
「ガラケー、よみがえらせてみたら…」というタイトルで、数年間家で眠っていたガラケーを復活させて、中に入っているデータを確認して、人の愛に気付いたり、感動したり、というような内容でした。

なぜ修理王が舞台に? 取材までのいきさつ

スマホ修理王が登場するのは番組の後半でした。対象となった端末は、東日本大震災で被災した旦那さんのガラケーで、「震災で見たあの惨状を実際に復旧させたい」というような内容でした。

iPhoneのデータ復旧などでは、持ち込めるお店(修理ショップ)がたくさんあるかもしれませんが、ガラケーの修理・データ復旧までやっている会社は、日本でもほとんどありません。その中でも、修理王は、東京・名古屋・大阪の3大都市で展開していますし、NHKのお膝元=渋谷区神南に本店があるため、NHKさんとしても、取材しやすかったのかもしれません。

最初は、渋谷神南本店にNHKさんから電話が入りました。この時は、番組の概要と依頼内容を簡単に聞いた程度。この時点では、修理ができるかどうかは全く分かりませんでした。ガラケーに限らず、携帯電話の修理は、現物を見て、実際にやってみないと分からない部分が多いのです。

ガラケー修理の方法は、大きく2つあります。

  1. 基板乗せ替え修理
    「同じ機種を用意して、その中から使える部品を流用していく」修理です。これで直らなければ、次の基板修理に進みます。
  2. 基板修理
    「基板自体の損傷を見つけ出し、直す」修理です。1つ目の「基板乗せ替え」修理で復旧しない場合は、基板そのものが破損している可能性があるため、これを修理するものです。

そのため、まずは、ディレクターの方に機種を教えていただき、壊れているガラケーと同じ機種を入手することから始めました。

NHK ドキュメント72「渋谷 スマホ修理」
最初の連絡から10日ほど経ってから、NHKの撮影スタッフの皆さんが来店されました。修理王は、過去にもいろんなテレビ取材をいただいていますが、NHKさんには『ドキュメント72』という番組の「スマホ修理 渋谷」で取材をしてもらったことがあります。

「ドキュメント72」では、本当に72時間(丸々3日!)にわたって、取材スタッフの方が店内に滞在されましたが、カメラマンの方は、72時間の時と同じ方でした。修理王のことを知っていただいている方がスタッフにいらっしゃったので、この時点で何となく安心。

渋谷神南本店で、動かなくなったガラケーのデータ復旧に挑戦したが…

改めて、来店されたディレクターの方から端末の状況や背景を伺いました。「震災のときの写真が…」という言葉でボク達は結構やる気が漲ります。
当店に持ち込まれるデータ復旧系の依頼は大きく「暴くタイプ」と「想い出タイプ」に分けられます。
前者は主に横領や不倫の証拠が欲しいというニーズ、後者は「あの人との想い出」を取り戻したいというニーズです。
もちろんどちらも当店にとっては重要なお客様であって、どちらも一生懸命頑張りますが、もちろん気持ちが入るのは後者です。
「死んだ親父の最後のメッセージがこの携帯に入っています」
「家族同様のワンちゃんの写真がこの携帯に入っています」
などのご依頼はお客様のエピソードを聞いている段階で涙がにじむこともあります。

今回の修理に望むのは渋谷店の店長のAくん。
Aくんは東京ではトップレベルの技術を持っています。
早速二台のガラケーを並べて修理を開始。
放送された内容ではAくんの部分はすべてカットされていましたが、Aくんもかなり頑張っていました。
持ち込まれたガラケーの内部を見るなり「結構やられていますね。これは結構な損傷だ」と一筋縄では行かないことを感じたようです。
Aくんの手元ギリギリまでカメラが接近、Aくんは緊張しているかと思いきや「修理をしているときは周りはほぼ見えていません」とのこと。
さすが!トップエンジニア!

修理をすること90分ほど…。
何度か端末のランプが点いたことを確認するもAくんからは「残念ですが、ボクができるのはここまでです…」と修理不可の判定。
ディレクターの方に簡単に症状と状況を説明します。
ここまでやって、直らないのはあとは内部の基板が壊れている可能性が高い、これくらいの損傷だと直せるのは大阪にいるFくんくらいだと思います、と伝えます。
大阪のFくんは携帯修理業界では全国トップの腕前を持つエンジニアです。
当店は同業の携帯修理屋が直せない修理を行う「修理屋の修理屋」の顔を持っています。
携帯電話の修理屋はほとんどが「画面が割れた」「電池を交換して欲しい」というお客様ばかりでこの程度の修理は練習すれば誰でもできる(と言ったら失礼ですが)ものが多い。
修理の技術が未熟だったり、端末の構造を把握していない人がやると修理過程で内部の基板を傷つけてしまい、端末を壊してしまうことも多い。
そんなときに登場するのが大阪店店長のFくんです。
彼が直せなければその携帯は直らない、というくらいの腕前があります。
NHK『ひとモノガタリ』2

NHK『ひとモノガタリ』3

そのことを取材スタッフに伝えたところ、「Fくんは今日は出勤ですか?よし!今から行こう!」と取材スタッフの皆さんは準備を始めた様子。
なんと!渋谷から大阪へすぐに飛ぶというフットワークの軽さとこのガラケー修理にかける執念は素晴らしい!

なんとなく「フットワークは軽くないだろう」というNHKさんに対する先入観が覆され反省…。
早速大阪のFくんには事情を説明して到着次第、すぐに修理に取りかかれるように準備を依頼する。

約三時間後、NHKの皆さんが大阪店に到着。
改めて事情を伺い、Fくんが修理に取り掛かかります。

NHK『ひとモノガタリ』4

渋谷でAくんが行ったことを再度神の手Fくんがいちからやり直す。
それでもやはり直らず、基板が壊れていることは間違いないようです。
いよいよ得意の基板修理を施します。

NHK『ひとモノガタリ』5

基板は携帯電話の脳みそにあたる重要な部品です。
小さな基板にたくさんの配線がつながれているため、電子顕微鏡で確認しながら過去の回路図や経験で修復をしていきます。
とても細かい作業なので一台一台に使う労力が大きく、とても疲れる作業です。

作業に取り掛かること120分。
Fくんから出た言葉は「残念ながらダメでした」。
NHKの皆さんもFくんがやっていることは目の前で見ているので「ここまでやってもダメなら仕方ない」と思ってくれたようです。
ただ、修理屋のボク達からすると、なんとも悔しい結果でした。
やっぱり震災のエピソードを聞いているとなんとしてでも復旧させたかったという気持ちが残りました。

実はガラケーのデータ復旧ができる可能性は80%くらいです。
この数字が高いかどうかは分かりませんが、今回は20%の方の依頼になってしまいました。
「もう少し損傷が軽ければ直せたのに…」今まで数々の携帯電話を復活させてきた神の手だけのFくんもとても悔しそうでした。

今回の番組は修理技術にスポットを当てたものではなく、お客様のガラケーに入っているデータにスポットを当てたものなので当店の修理の大部分がカットされていましたが、さすがはNHKさん、かっこよく編集していただいていました。
普段は観る側ですが(ほとんどの人がそうでしょうけど)少しでも制作側に触れることができた瞬間でした。

修理スタッフF君の目線

今回、NHKさんから依頼を受けた端末は「G’z One CA002」という、2009年に発売された、いわゆる「タフネスケータイ」です。”Gショックのガラケー版”と思っていただければイメージしやすいと思います。特徴としては、「防水性能 (IPX5・IPX7相当) と耐衝撃性能」とかなりタフな仕上がりとなっています。未だに根強い人気があり、ガラケーの中でも比較的多くのご依頼をいただく機種です。

修理の依頼内容は「端末が全く電源が入らず、内蔵バッテリーを交換しても起動しない」というもの。当店の東京店舗で一度「異常のない全く同じ端末に基板を移植」しました。それでも全く起動せず、基板の故障と診断し、この度大阪の心斎橋店へ、遥々東京から足を運んでいただきました。

放送を見て知りましたが、別の修理店でも様々な作業をされたようでした。お客様でも多くいらっしゃいますが、直らないから「他の店へ・・・また他の店へ・・・」と転々とされる方がいますが、お店により技術というのは正直ピンきりです。
作業によっては致命傷となります。プロだから言えることですが、スマホ修理のお店選びは慎重に行いましょう。

修理の内容に戻りますが、「CA002」のガラケーは過去に何度か基板修理で復旧経験があったものでした。そのため、少し直せる自信がありましたが、今回は残念ながら復旧することができませんでした。

今回の作業レポートとしては、

  1. 電流が流れているかのチェック。
    →0Aで全く電気が流れていないことを確認。
  2. メインのIC CHIP 周辺に異常がないかチェック。
    →電源系統など念入りにチェックしますが、故障箇所は特定できず。
  3. データが格納されている「Flash Memory」などを取り外し、正常な基板へ移植。
    →それでも電源は付かず・・・。

こうなると考えられる原因は、「メインのCPUやIC CHIP、Flash Memory自体の破損」です。携帯電話は、画面が壊れれば画面を交換、電池が弱れば電池交換、と替えが利く箇所はいくらでも交換が可能です。ただ、今回のように、重要なパーツが破損してしまうと、修復すること自体が物理的に不可能になります。放送では僅かな時間でしたが、作業は数時間にも及びました。

依頼者の方の心情などは事前に耳に入っていなかったため、変なプレッシャーはありませんでしたが、放送を見て、まだまだ自分の技術が未熟だったなと深く反省する次第です。これからもお客様の大切なデータを取り戻す手助けを行っていきます。